身体に振動が加わるとどのような反応が起きるのかが書かれている書籍です。

公害防止の技術と法規[ニ訂]
振動編
・公害防止管理者等資格認定講習用
公害防止の技術と法規 編集委員会編

p14~
人体は外界からの振動刺激に対し、物理的刺激に対し、物理的応答を示すもので、ある周波数では振動を減衰させるが、加わった振動の周波数が人体の特定の部位の固有振動数に一致すれば、振動を減衰させるが、加わった振動の周波数が人体の特定の部位の固有振動数に一致すれば、振動を増幅して共振を生じる。共振によってその部位の振動は最も大きくなる。
人体の共振周波数は座席への体の固定方法、姿勢、振動の方向などによって異なるが、鉛直振動では座位や立位の人体の胸腹部の共振は4~8Hz付近にあり、頭部特に眼球では20~30Hz付近に共振が現れる。共振によって振動が増幅されることにより、人体への心理的・生理的影響も大きくなることはいうまでもない。
人体はこのような振動特性を持っているので、加振によって体の局所的な症状が、軽度なものから、死に至るような重度なものまで、様々なな程度に出現する。
座位の人体に、鉛直振動を耐えられる限界まで暴露したとき、出現する症状を周波数とともに示すと図1.12のようになる。ほぼ全身にわたりいろいろな症状が現れるが、周波数からいえば5~10Hzの周波数が大きな影響を示していることが分かる。しかし振動公害でこのように大きな振動が人体に作用することはない。

一般的な上快感(頭部):4.5~9Hz
会話困難:13~20Hz
顎の共振:6~8Hz
咽喉の苦痛:12~18Hz
胸郭の疼痛:5~7Hz
呼吸困難:1~8Hz
背痛:8~12Hz
意識的な筋れん縮:4.5Hz~9Hz
下腹部痛:4.5Hz~10Hz
便意切迫:10.5Hz~16Hz
尿意切迫:10Hz~18Hz
筋緊張の増強:13~20Hz

1.3 振動の影響
外界からの振動の刺激によって、人体にいろいろな応答が生じることは既に述べたが、これらのうち生理的応答は、振動受容器によって発生した活動電位が引き金となって生体内反応系が駆動されることによって起こり、また物理的応答は、人体が振動伝達系として働き、振動が直接人体の各部位に作用することにより応答を生じるものである。
このようにして出現した変化が、生理的応答の結果なのか、物理的応答の結果なのかをはっきり区別することは困難なことが多い。
しかし、これらの応答の結果として人体に表れた生理的変化を振動の生理的影響といい、心理的変化を心理的影響という。また、生理的、心理的、物理的応答の結果として作業の能率に影響が出る場合は作業能率への影響という。
ここでは、そのほかに建物への影響についても触れることとする。

1.3.1 振動の生理的影響
現在までに多くの研究者によって実験や調査が行われたが、その結果、明らかにされた生理的影響のうち主なものをまとめて表1.4に示した。

表1.4 振動の生理的影響
搊  傷:脳、肺、心、消化管、肝、腎、せき髄、関節など
循環器系:血圧上昇、心拍数増加、心拍出量減少など
呼吸器系:呼吸数増加
代  謝:酸素消費量増加、エネルギ代謝率の増加、RQ増加
体  温:上昇
消化器系:胃腸内圧増加、胃腸運動抑制、内蔵下垂など
神経系:交感神経興奮、腱反射低下又は消失、手指しんせん、フリッカー値減少、睡眠妨害など
感覚器系:眼圧上昇、眼調節力減退、内耳萎縮性退行性変化など
血液系:ヘマトクリット値増加、好中球増加、好酸球増加又は減少、血清カリウム増加、カルシウム増加、ナトリウム増加、血清トランスアミナーゼ上昇、焦性ブドウ酸増加など

ただしこれらの影響のほとんどは、相当大きな振動を人体に暴露した場合に出現するものであって、郊外振動の影響としてこのような生理的影響が必ず出現するものではない。
昭和47年に行われた環境庁の公害調査によれば、振動公害では睡眠妨害以外の生理的影響はみられないという結果が得られているし、旧中央公害対策審議会の振動専門委員会の報告では、人体に優位な生理的影響が生じ始めるのは振動レベルで90dB以上であり、これを地表の値に換算するとおおむね85dB以上ということである。また、ISO(2631-1974)の基準や日本産業衛生学会の基準では、労働環境で労働者が8時間振動に暴露される場合の許容レベルは、振動レベルでいうと90dBとなっている。